東大現代文のカリスマ=堀木先生の思い出

最もPVが多い記事が「中学受験国語と東大現代文は同じ解き方で!」なので、今回はそのおまけです。私の現代文の恩師は、代ゼミの堀木博禮(ひろのり)先生です。先生は、1980年代から90年代にかけて、NHK高校講座や旺文社ラジオ講座も担当しておられました。

 

堀木先生の講義には他塾から「もぐり」が来るほどで、当時は東大現代文のカリスマでした。冗談・脱線は一切なく、淡々・朴訥とした口調は「堀木の子守歌」と言われていました。その実は、正統派国語教育への情熱がみなぎり、受験生の貴重な時間を一分一秒たりとも無駄にしない誠実さにあふれていたと思います。生徒は、先生の精読についていくために、一言も聞き漏らすまいと、必死でくらいついていました。

 

堀木先生の精読は、記号やテクニックなどなく、「書いてあるとおりに読む」ことです。板書もほぼないので、安易な解法を求める生徒は去っていきます。入試直前期まで残るのは、堀木先生の教養と人柄に心酔し、先生の精読に一歩でも近づきたいと考える生徒たちでした。合格・不合格を超えて、残された時間ぎりぎりまで、先生の講義を聴きたいから集まっていたのです。

 

「書いてあるとおりに読む」という教えを、私は「自我や主観を消して、筆者の考えを聴くことに徹する」と理解しました。先生は2001年に70歳で亡くなったそうですが、寂しい晩年と言われるのは、とても残念です。没後20年を経た2022年に、Z会から堀木先生の名前で新刊が発行されたのは、いまだに多くの教え子が先生を慕っているからでしょう。心から尊敬できる国語教師に出会えたのは、本当に幸運であったと思います。